ダイエットと科学③

「ダイエットは99%の努力」

ダイエットをするかしないかの指標はほとんどの方が聞いたことがあると思いますが、BMI(Body mass index)を基準に考えます。体重(kg)÷身長(m)の二乗で、この数値が18.5未満で痩せ気味、18.5~25未満で普通、25以上で太り気味と評価されます。もっとも有病率が低くなる数値が22といわれており適正値として定着しています。が、一方で死亡率とBMIの関係を見ると、21~27で全死因が低値になる1)と報告があります。特に男性では25~27で一番低値になるようで、BMIに照らせば太り気味が一番死亡率が低いことになります。有病と死因との関係は複雑でしょうし、健康寿命としてはどうなのかなど、まだまだはっきりしてないことは多いのですが、一概に肥満=悪ではないことだけ念頭にいれてください。ただBMIが30以上の肥満は死亡率を確実に引き上げるので、その方は確実にダイエットを必要とするでしょう。また、痩せ気味であっても有意に死亡率を引き上げるようで、BMIでは正常範囲である20付近でも死亡率が高くなっていき、18.5未満ではさらにリスクがあがります。考えられる原因としては感染症などの体の抵抗力を低下させる疾患に弱いようです。そのため痩せていることが良いという風潮である日本において、それが必ずしも正義ではないことも念頭においてください。
肥満が原因となる疾患に罹った場合は、疾患の種類にもよりますが、糖尿病などでは3割負担で平均年間で7~10万ほどかかるようです。もちろん糖尿病だけがリスクではないので、他の合併症も考えれば、どんどん上がるでしょう。一方で、肥満そのものを治すのに費用は必要無いと考えています。せいぜい体重計(これは重要です)くらいで、努力次第でまったくお金の負担なく治すことのできる、非常にリーズナブルな疾患だと思います。努力に対する動機付け、例えばジムに通う、機械を買う、効果の期待できるサプリを摂る(当社にもあります)等は自身の裁量に委ねる部分はありますが、とにもかくにもまず体重計に乗ってください。

「一か月間、一日一回、必ず同じタイミングで体重を測り、記録する」

まずはこれだけです。最初の一か月間だけ体重だけ測定して記録してください。ただし、朝だったり夜だったり、食事前食事後などばらばらに測るのではなく、まったく同じタイミングで測定してください。服装もできるかぎり同じくらいにします。できれば体重の変動しやすい食事後ではなく、食事前がベストかと思います。体重を測るだけですので、ダイエットの必要はありません。もし若干でも意識してやりたいことがある場合は、一か月間の体重測定と共にやり通してください。この体重測定の目的は、一か月間測定しつづければ、およそ普段の生活習慣を平均して読み取ることができるだろうと思われるからです。外食をとることもあれば、食事を抜くようなこともあるかと思いますが、それらを含めて一か月様子を見ましょう。そして一か月後、測定開始時と比べて体重がどれくらい変動したかを見ます。

体重が減少していた場合、特別な処置は必要ないのではないでしょうか?あるいは無意識のうちに減量を意識していたかもしれません。体重測定だけは継続して様子を見ても良いと思います。
現状維持、体重が増加していた場合、普段の生活習慣を一度見直すべきかと思います。よほど不規則な生活でない限り、生活習慣はおよそ一定の動きを示すと思われるので、そこを改善します。例えば、エレベーター等の使用を階段にしたり、通勤までの歩行速度を早くしたりと、とにかく体に対する負担を増やす工夫をします。

「非効率で燃費の悪い行動を心がける」

最寄りの駅までどれくらい時間がかかるでしょうか?普通に歩けば息が切れるようなことはあまりないと思いますが、早歩き或いは小走りしたら息が切れますよね?同じ距離でも時間を短縮するという行為が、エネルギーの非効率な消費に繋がります。ただ走るほどの高強度な負荷は持続性が無くなるため、早歩きくらいがベストかと思います。エレベーターやエスカレーターは数十キロの体を負担無く上げ下げしてくれる便利な機械ですが、同じ距離で階段を使っただけでおそらく足はパンパン、息も切れ、時間もかかる。現代社会ではまったく非効率な行動ですが、それこそがダイエットには最適です。ただ同じ運動でも水中ウォーキングなどは、負荷をかけられないひとの運動方法としては良いですが、ダイエットを目的とした運動としては弱すぎるでしょう。浮力が体の体重分の負担を軽減するため、泳ぐにしてもかなり泳ぎこまないと厳しいかもしれません。
そして筋肉をつけるような動きをすることが望ましいです。筋肉自体がエネルギー効率の悪い存在といっても良いでしょう。同じ行動をしても、筋肉がある分どうしても消費エネルギーが増えてしまいます。そのため筋肉をつけることが基礎代謝を底上げすることにつながります。
食事面ではアルコールを減らす、ご飯を半分にする、間食を減らすか無くす、等です。基本的に炭水化物系のエネルギー源となるものを減らしますが、ゼロにする必要はありません。また肉などの一見太りやすいと言われるものを減らす必要はありません。むしろ運動負荷をかけるなら省いてはいけない重要なタンパク源です。植物性タンパクだけでは補えない栄養素がたくさんあります。ただ調理方法では揚げ物など油を豊富に使う調理は避けた方が良いと思われます。
繰り返しますが消費エネルギーを増やして、摂取エネルギーを減らす、これがダイエットの基本です。体重の減り方は個人差があるので、一概には言えないですが、普段の生活からなるべく頑張っているのになかなか減らない人も、無駄と思わずに続けてください。ヒトは永久機関ではないので、増やした負担分は必ずエネルギーとして消費されており、摂取エネルギーが減っているなら、アンバランスによりいずれ体重は減っていきます。減らない原因はおそらく脂肪が筋肉に変換される(脂肪よりタンパクのほうが重たいです)からだと思われます。いずれこれらのトータルバランスが崩れた時(良い意味で)必ず減っていきます。このバランスは個々人で違うので指導は難しいです。だから体重を測定して、自分自身のバランスを認識します。なので、体重測定は何よりも最重要です。
体重が減った後のリバウンドの心配は比較的少ないと思われます。基本的にリバウンドは運動をせずに食事のみを削減した場合に非常に起こりやすいものです。体が飢餓状態になっているので、体重を減らしても普通の食事に戻したら、体は全力で栄養を吸収しようとします。運動による代謝の底上げもしてないので、元に戻るのは必然かもしれません。それに比べれば、生活習慣から改善する努力型のダイエットは、仮に元の生活に戻したとしても、一度体は変化しているので容易に元にもどりません。だから生活習慣により増加した体重を減らすのは大変なのです。
最後に、ヒトは無駄に脂肪を貯めているのではありません。ほんの少し前までは飢餓と隣り合わせの時代であり、それに対処するための生物の知恵です。生理的な現象を安易な方法で解決できるとは思えませんし、できたとしても安全とも思えません。生理的に増えたものは生理的に減らしていく。そのため都合や欲求を抑えて努力する必要があるのです。以上で長くはなりましたが、3回に渡った科学的に考えるダイエットの話はこれで終わりになります。

1) Sasazuki S, et al. Body mass index and mortality from all causes and major causes in Japanese: results of a pooled analysis of 7 large-scale cohort studies. J Epidemiol. 2011;21(6):417-30.