腸内細菌がトレンド

最近、腸管に寄生する寄生虫が腸内細菌に作用し、肥満を抑制するという論文1)が発表されました。簡単に説明すると、寄生虫が腸内の細菌に作用し、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)を増加させることでUCP1(脱共役タンパク質)の発現を促し、肥満を抑制するというものです。専門的な単語はともかくとして、寄生虫が存在することで肥満を抑制する仕組みを初めて証明した論文のようです。ただ寄生虫が直接体内に作用するわけではなく、腸内細菌を刺激することによって起こるということを考えれば、メインは腸内細菌の在り方ということでしょう。
腸内細菌叢(そう)の研究は近年急激に発展しています。というのも、腸内、特に大腸内は嫌気性(酸素がほとんど存在しない)であり、その環境を実験室レベルで再現するということが困難であり、かつ何百種以上いるといわれる細菌を個別に判別していくのは手間がかかります。しかし遺伝子的に解析する方法が発見され、培養できなかった細菌も解析することができるようになったことが、近年の研究の発展に繋がっています。
栄養学的な視点で見ると、腸内にすでに存在する乳酸菌やビフィズス菌などのいわゆる善玉菌を維持・増やすために、その菌の餌となる食物繊維やオリゴ糖、乳酸菌等の死菌(生菌でもよい)を摂取することが望まれます。現在のところ、外部から摂取した菌(ヨーグルトなど)が腸内で新たに増え始めるといったことは基本的に無いようです。つまり生きて腸まで届く菌といった製品の場合、その菌が腸に届き、排出されるまでの間に人体に有益な生理活性があるということであれば意味がありますが、生きて届き腸内で増殖するわけではないため、注意が必要です。すでに生息しているところに新たに住み着くのは難しいということですね。
これまでの研究により、腸内細菌が便秘や大腸がんなどの腸自体の作用にとどまらず、神経や精神疾患などの一見関連が無さそうなことまでも影響がある可能性が示唆されています。そうすると大腸を切除した人はどうなのか、菌自体に意味があるのか、菌が産生する物質に意味があるのか、それらの物質を特定し創薬できないのかなど、興味が尽きないところであります。今後の研究の進展に期待しましょう。

1)Shimokawa C. et al. Suppression of obesity by an intestinal helminth through interactions with intestinal microbiota. infection and immunity. 2019.