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免疫と栄養学②

「免疫療法の副作用」
免疫細胞の主な役割は不純物や自己以外の外来の排除であるわけですが、自分自身はどのようにして見分けているのでしょうか。
私たちが例えば自分の手を見て、自分の手であるという認識をするには、視覚的なものだったり、動作や感覚などで判断していますが、細胞も自身を認識する仕組みがあるはずです。今回の研究はこのような仕組みを逆手にとった、自分自身を認識しない、という方法でガンを攻撃する方法というわけです。
しかし、自身に対する認識を甘くするということは、間違って本当の自分を攻撃する機会が増えるということに繋がります。いわゆる自己免疫疾患です。
ある種のマウスのPD-1遺伝子をノックアウト(欠損)させると、腎炎や関節炎が起こる1)という報告があります。
別種のマウスではまた別の免疫疾患が見られるわけですが、いずれにしても免疫におけるブレーキの部分を破壊した場合は何らかの障害が生じる可能性があるようです。
ガンの治療と他の免疫疾患の可能性の両天秤になるのだろうと思われます。

「免疫力を高めるとは」
話は戻りますが、ガンに対して自身の免疫力で対抗するということは、その免疫力自体が低ければ効果が薄いことになります。そうすると次は、いかに免疫力を高くするか、ということが重要になってきます。
しかし言葉にすると簡単ですが、免疫力が高い、低いをどのように判断するのでしょうか。
例えば去年は風邪に罹ったのに、今年は罹らなかった、から去年より免疫力が上がったといえるでしょうか。今年はたまたまそういうウイルスや細菌に暴露されなかっただけかもしれません。血液検査で白血球等の数を見ても、採血時の状態で上下するため、極端に高かったり低かったりする以外は、免疫力を測る指標にはならないでしょう。つまり免疫力を一般的な方法で測定することは非常に難しい(研究レベルでは可能なようです)のです。しかしながら、免疫に関する研究は盛んに行われており、今回のノーベル賞の研究のような薬剤により制御するもの以外でも、栄養或いは天然由来の物質で免疫に影響するような研究も行われています。

例えば弊社で紹介している免疫活性の手段の一つにラクトフェリンがあります。詳しくはラクトフェリン・フェカリス菌ラクトフェリンの働きにある説明を見ていただければよいと思いますが、腸内におけるビフィズス菌の活性、細菌やウイルス、寄生虫などに対する抗微生物活性、抗炎症作用など多様な作用2)が報告されています。一般的な食事による接種で現実的なものには牛乳(殺菌前)がありますが、1リットル中に200mg含まれており、これはヒトにおける初乳(1リットルに6000mg、常乳で2000mg)の1/10~1/30程度の濃度です(日本ラクトフェリン学会より一部抜粋)。ラクトフェリンの効果を目当てに10リットルもの牛乳を飲むのは非現実的ですし、他の弊害がでるでしょう。こういった成分の一つがどれくらい免疫に効果があるのかは、個人差の問題もありはっきりしたことは言えませんが、研究において効果が実証されている以上は期待しても良いものだと思われます。
そして、免疫力をもっとも高めるために必要なことは、睡眠不足の解消や食事のバランスなど、日々の生活が非常に大きいということは、言うまでもないかもしれません。

「参考文献」
1)Nishimura et.al. Development of lupus-like autoimmune diseases by disruption of the PD-1 gene encoding an ITIM motif-carrying immunoreceptor.
Immunity.1999;11.141-151.

2) Yamauchi K, Kuhara T. Influence of milk proteins on the intestinal immune system. milk science.2008;56.199-208.

免疫と栄養学①

本年もインフルエンザの季節が近づいてきました。いくら気を付けても周りの環境に依存することも多く、完全な予防というものはなかなか難しいところです。今回は免疫についての話です。

「免疫療法の発見」
2018年ノーベル生理学・医学賞に京都大学の本庶佑(ほんじょ・たすく)特別教授と米テキサス大のJames P.Allison教授が受賞されたことは記憶に新しいと思います。
日本では本庶教授の話題のほうが多いと思いますが、両氏とも免疫という分野こそ共通しているものの、違う機序でガン治療に対する効果を証明しました。

ヒトには自己以外のモノや異物を攻撃する免疫システムが存在しています。これは自己とそれ以外のものを認識する仕組みがあるということであり、自分自身を誤って攻撃してしまうと、自己免疫疾患という形で病気が発症します。
ガン細胞も異物であるためT細胞(免疫細胞)が攻撃しようとしますが、同時に自己からできたモノであるため、T細胞に対して「自己を攻撃しないように」と命令することができます。その為、T細胞はガン細胞への攻撃をやめ、ガンが増殖することになります。
本庶教授の研究は、T細胞への「自己を攻撃しないように」という命令を受け取らないようにする方法を発見(PD-1)したことであり、従来の手術、放射線治療、抗ガン剤に次ぐ4番目の治療方法を提示することができました。

図1 PD-1の作用機序

本来はT細胞のPD-1受容体にたいして腫瘍細胞が結合しT細胞が自殺するように命令するが、あらかじめPD-1受容体に無害な抗体で蓋をしてしまうことで、腫瘍細胞が結合できなくなる。結果、腫瘍細胞がT細胞の攻撃で死滅する。

一方でAllison教授の研究は、例えば風邪を引いたときにT細胞は増殖しウイルス等を攻撃しますが、あるタイミングで増殖にストップがかかる仕組みを発見(CTLA-4)しました。つまりこのストップに関わる部分を人為的にはずしてしまえば、T細胞は増殖し続けることになります。


図2 CTLA-4の作用機序

外敵に対する情報を持った樹状細胞が成熟前のT細胞に対して情報を提示、同時に増殖を促す(アクセル)が、ある程度増殖するとCTLA-4(ブレーキ)と結合し、増殖を停止させる。このCTLA-4を無害な抗体で蓋をすることで、さらに増殖を促すことができる。

これら2つの作用機序を利用した薬剤を用いた実験の一例として以下のものがあります。

BRAF遺伝子変異を伴うメラノーマ患者の生存率の表1)です。3本のグラフがありますが、下からAllison教授の原理を利用した薬剤、真ん中が本庶教授の原理を利用した薬剤。一番上が両氏の併用です。
縦軸は生存率、横軸は期間を表していますが、それぞれ単独で使用するより併用したほうが生存率は高いことがわかります。T細胞自体を増やし、ガン細胞からの抑制を防ぐのですから、この2つが重なれば効果が大きいことは妥当な結果かと思われます。

いずれにしても、今回注目された免疫療法が、薬剤の力を借りるとはいえ、基本的に本人の免疫力によりガンと対抗できることを示した点が非常に大きなことだと思われます。このように画期的な発見ではあるのですが、薬剤である以上副作用に関しては考慮しなくてはならないようです。
(②に続く)

「参考文献」
1) Wolchok JD, et al. Overall Survival with Combined Nivolumab and Ipilimumab in Advanced Melanoma. N Engl J Med. 2017; 377(14): 1345-1356.

朝食抜きは肥満を促す

名古屋大学の小田裕昭准教授が朝食を抜くことが肥満に繋がることを、ラットを使用した実験で示しました1)。電子ジャーナルのPLOS ONEに掲載されています。簡単に要約すると、朝昼晩の通常の3食を与える群と、朝食を飛ばした昼晩夜(24時あたり)の3食を与える群で同じ量の食餌を与えたところ、朝食を飛ばした群のほうが体重は有意に増えた、ということです。理由としては朝食を取らなかったことにより概日振動(体内時計)が狂い、肝臓の活動時間を減少させる為のようです。人で例えるなら朝食を抜くと体が活性化せず、元気がない、怠いといった自覚症状を見せる感じでしょうか。この結果がすべてでは無いと思いますが、朝食を摂る、摂らないといった議論に、科学的な一つの結論を示したといえるでしょう。

【参考文献】
1) Oda H, et al. Delayed first active-phase meal, a breakfast-skipping model, led to increased body weight and shifted the circadian oscillation of the hepatic clock and lipid metabolism-related genes in rats fed a high-fat diet. PLOS ONE. 2018.